東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2207号 判決
次に、被控訴人主張の(三)の事実は当事者間に争いがないから、控訴人中村、同平田は右抹消回復登記について登記上利害の関係を有する第三者にあたること明らかである。そこで、右控訴人らは控訴人白井がすべき抹消回復登記手続を承諾する義務があるかどうかについて次に判断する。
まず、本登記(抵当権設定登記)についてこれをみるに、登記は物権の対抗力発生の要件であるが、必ずしも対抗力存続の要件ではなく、本件におけるようにそれが権利者の知らない間に不法に抹消されたような場合には、物権の対抗力は依然失われないと解すべきであるから、本件抵当権の対抗力によつて、登記上利害の関係ある第三者にあたる控訴人中村、同平田は被控訴人のため右抹消回復登記手続につき承諾を与える義務を負うこというまでもない。そして、この場合、第三者は回復登記の有無にかかわらず抵当権登記の対抗力を否認することができない立場にあるのであるから、第三者が登記の上に利害関係をもつにあたり、登記が不法に抹消された事情を知つていたか否かによつて回復登記承諾義務の存否につきちがつた結論を出し、正当に抹消されたものと信じて利害関係をもつに至つた者は回復登記承諾義務を負わないとする根拠はないものといわなければならない。控訴人中村、同平田のこの点に関する抗弁は主張自体理由がない。
次に仮登記(所有権移転請求権および賃借権設定請求権を各保全するための仮登記)についてこれをみるに、仮登記は本登記のような第三者に対する対抗力はもたないから、善意無過失に登記上利害の関係をもつようになつた第三者は、回復登記により実質上不測の損害を受けることがないと認められるか、またはその損害が仮登記権利者の損害と比べて問題にならないほど小さいと認められる場合のほか回復登記手続を承諾する義務を負わないと解せられるところ、本件の場合、当審における控訴人白井孝本人の供述によると、控訴人中村、同平田はともに善意無過失に登記上の利害関係人となつたと認められ、この認定をくつがえすに足りる証拠はないけれども、右控訴人両名は、その抵当権がさきに説明したとおり被控訴人の抵当権によつて優先される結果、被控訴人の被担保債権額相当の額についてははじめから担保価値を確保することはできなかつたわけであり右の額をこえてなおかなりの担保価値を本件物件から引き出すことができるなどの特段の事情の認められない(むしろ、さきに認定した田中が金の貸付けを拒んだいきさつからすると、本件物件の担保力にはあまり余裕がなかつたことが認められる)、本件では、たとい各仮登記の回復登記が行われ、さらに後日代物弁済予約完結権の行使または賃借権設定の事実が発言したとしても、被控訴人の抵当権が実行されるだけの場合と比べて特に控訴人中村、同平田が問題になるほどの不利益を被むるとは考えられず、結局右控訴人らは本件各仮登記の抹消回復登記手続をも承諾すべき義務を負うものといわなければならない。
(新村 中田 吉田武)